2022年7月24日

『いい覚悟で生きる-がん哲学外来から広がる言葉の処方箋-』(著:樋野興夫)から、幾つかの文章(一部抜粋、編集)をご紹介する第四回。~楕円形のようにバランスよく生きる~ 「真理は円形にあらず、楕円形である」と言ったのは内村鑑三です。同心円とは、なんでも丸く包み込むようでいて、実はとても排他的な形です。同心円の社会や組織は価値観や思想が均一的なため、異質のもの、相反するものを内包できません。異物がないのですからスムーズに運びそうですが、いったん異質なものが侵入すると、免疫がないわけですからパニックを起こし、結果的に自浄作用が働かなくなり、組織は滅びてしまいます。それに対して、定点をふたつ持つ楕円形は、健全な生体システムとして機能します。生物の体には、対極的な働きをするものが同居しています。たとえば、自律神経には互いに反対の作用をする「交感神経」と「副交感神経」があり、一方は活動を活発にし、一方では活動を抑えます。同様に、細胞内には「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」があって、通常はバランスを取って、がん化を抑えています。

病気を患ったときやトラブルを抱えたとき、同心円的な考えの人は、悩みそのものよりも「異物のある自分」を受け入れられないことに苦しむようです。「体が悪いばかりか、なんの役にも立てず、自分はしょうもない人間だ」と言って、自分を追い込んでいきます。ですから、私は患者さんに言うのです。「完璧でなくていいんですよ。楕円形のように少々いびつでいいんです。それどころか、ところどころほころびがあってもいいんです。」 楕円形とは共存の精神です。病気やトラブルがない人生はまれでしょう。ならば、病気も込みで人生、いいことも悪いこと込みで人生と考えてみる。まさに楕円形の2点バランスです。不幸があるから対極的な幸せに気づくことだってあります。自信を失うことで謙虚さを得ることだってあります。それは、人としての品性と包容力が高まることではないでしょうか。」

 

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